”私”は洞穴(ほらあな)に居る。
ただの洞穴ではない。
ここは”私”の立派な”家”だ。
入口に置いたドアから外をうかがう。
もう夕暮れだ。
今日は疲れたのでもう寝ることにした。
苦労して作ったベッドに横たわり、目を閉じる。
少し経ったかどうかという時に朝になった。
それと同時にベッドから勝手に起き上がってしまった。
なんなんだ?
すぐ朝になるし、勝手に起こされるし。
この世界ではゆっくり寝させて貰えないのか?
眠いとか、疲れが取れていないとかではないので、まぁいいが。
さて、今日はどうしよう・・・
ふと気が付くとおなかが空いていた。
そう言えばこの世界に来てから何も食べていなかった。
食べ物が無いわけではない。
おなかが空かなかったのである。
ポケットを探ると、最初に手に入れたパンがあった。
それを口に入れるとゲップが出た。
「失礼」
声に出せないが、心の中で思った。
だが、周りには誰もいなかった。
ちょっと寂しくなったので、同じ顔のおじさんたちのところに行ってみた。
外は太陽がまぶしかった。
おじさんたちはあいかわらずうろちょろ動き回っている。
当然、”私”がゲップをしたことなど気にしていない。
あらためて、今日は何をしようか?
ドラゴンを倒すということは武器や防具があったらいいかな?
確か作業をする台に触った時に石の剣とかがあったような気がする。
まずは石を手に入れるか。
そうは思ったけど、石ってどこで手に入れるんだ?
ふと、自分の家に目をやった。
家ではなく、洞穴だけど。
そう言えば、洞穴の中の一部に石がむき出しの場所があったことを思い出した。
急ぐ必要はなかったが、急いで家に戻り、石の部分を確認してみた。
何も置いていない床の一部が石になっている。
試しに木のつるはしで掘ってみる。
ちょっと硬いのか時間がかかったが石を破壊し、例の立方体になった。
やった!
石を手に入れた。
もう少し手に入れたかったので、そのまま下に階段状に掘った。
石を数個手に入れたところで、黒いぶつぶつが入った石が露出した。
これはなんだ?
よく見るとそれは石炭のようだった。
燃料になるのか?
良くわからないがこれも頂いておくことにした。
これは破壊すると立方体ではなく、黒い塊として宙に浮いている。
このまま使えるということか?
とりあえずポケットに入れておいた。
石炭は何個かの塊になっていて、根こそぎ頂いておいた。
最後の石炭を壊した時、「ガシャン」と音と共にツルハシが消えてしまった。
??
壊れた?のか??
仕方がないので、数段上がり、”私”の”家”の中に戻った。
ツルハシが無いと掘るのも大変だな。
そう思い、作業を行う台に手を置き、ツルハシが作れないか確認してみた。
するとツルハシがあった。が、何種類かある。
今まで気づかなかったが、”木”以外に”石”や”鉄”・”金”・”ダイヤ”まである。
ゲームで考えれば当然、ダイヤの方がいいもののはずだ。
ゲーマーでもある”私”はとっさにそう感じた。
と同時に、今時点で最高のツルハシが手に入らないこともゲーマーなのでよくわかっていた。
今作れるものは・・・
”石”のツルハシしかないか。
ツルハシを作るには”棒”が必要らしい。
”棒”は木材から作るみたいだ。
”棒”を作って、”石”のツルハシを作った。
せっかくだから、今作れるもので必要そうなものを探してみた。
石の剣、かまど、たいまつ、階段?
いろいろなものが作れるが、とりあえず必要そうな石の剣とたいまつを作っておいた。
モノづくりをやめようとしたときにふと思った。
そう言えば、石炭ってたいまつを作るときに使ったけど、何かの燃料ではなかったのだろうか?
あらためて、作れるものを眺めていると・・・
かまど?
かまどに火をくべてなにかを焼くのかな?
とりあえず作ってみることにした。
作ったかまどはこの作業をする台の横に置いてみた。
思った通り、かまどには燃料と焼くものを入れるようだ。
せっかくだから何か焼いてみることにした。
そう言えば、羊を倒したときに”生の羊肉”が手に入ったが、これのまま食べるのもどうかと思うので、これを焼いてみることにした。
石炭をセットし、生肉を入れた瞬間、火が付いた!
すごい、着火作業は必要無いようだ。
少しすると肉が焼けた。ジンギスカンと言ったところだろうか。
これで食料が増えた。
いろいろな持ち物が増えてきたが、このままずっとポケットに入れておくのもどうかと思い、何かしまえる棚か箱のような何かが無いか探してみた。
どうやら木材から”チェスト”が作れるようだ。
この”チェスト”は”私”がこの世界で気が付いたときに最初にいろいろなものが入っていた”宝箱”だった。
そうか、チェストにいろいろものをしまって置いておけばいいのか。
チェストを作り壁際に置いた。
チェストには今まで手に入れたものを入れておいた。必要そうな石の剣・たいまつ・食料はポケットに残して。
こうしてみると、素材となる原木がもう無いことに気が付いた。
原木は木を破壊すればいいんだな。
原木を破壊するには”斧”を使うんだな。
”私”はこの世界を理解し始めた。
せっかくだから、石の斧も作っておこう。
この日は原木を集めて終わりにしようと思った。
原木を夢中で集めていたらいつの間にか夕暮れ時。
さて、”家”に帰ろうかと思ったそのとき・・・
「ウォ~」
??
何か恐ろしい声が聞こえる。
なんだ?
声のした方を見てみた・・・
ゾ、ゾ、ゾンビ!!!
ぎゃ~!!!
石の剣があることなど忘れ、村人の居る方へ逃げた。
逃げたがゾンビはどんどん近づいてくる・・・
目をつぶり、頭を保護してうずくまった。
もうだめだ・・・
そう思ったとき、大きな音がした。
ハッとなって音の方を見た。
すると大きな鉄のロボットのようなものが目の前に居た。
ゾンビも怖いがこいつも怖い。
が、どうやら敵対する相手ではないらしい。
一瞬でそう思った直後、後ろで「ドターン」と大きな音がした。
振り向くと先ほどのゾンビが地面に叩きつけられていた。
鉄のロボットみたいなものはそのゾンビをさらに吹き飛ばしていた。
ゾンビは倒されたようで、消えてしまった。
どうやら、鉄のロボットみたいなものは”私”を守ってくれたようだ。
助かったと同時に、”ドラゴンを倒す”どころか、ゾンビにもびびってしまい情けないと思い落ち込んだ。
さて、この先どうしたものか・・・
びびっていては帰れない。
いや、帰れる保証はないけれど・・・
そんな時、頭の中にある言葉が聞こえてきた。
「ネザーへ行きなさい」
??
ネザー?
行く??
この時はこの言葉の意味を知る由も無かった。
本当にこの先どうしたらいいの~!!
もちろん声は出なかった。